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ガチャガチャと彼女が鍵を開け
俺の手を引き
部屋へと進む
「優子さん、俺はじ…」
俺は洵じゃない…
その言葉は両手を広げ俺の首の後ろで交差された腕と
重ねられた唇で行き場を失った
俺は洵じゃないんだ…
キスの合間に吐息と一緒に囁かれる名前
「洵」
「洵」
「洵」
舌を絡ませているのは俺なのに
彼女の頬は涙で濡れていた
分かっていたはずなのに
彼女の中で
未だに生き続けている兄貴の存在が大きすぎて…
兄貴になれたら
俺が兄貴だったら
『洵』と繰り返し呼ばれ
俺の心は千切れそうだった
泣きながら
『洵』と名前を呼び続け
俺とキスを交わす彼女を…
拒む事なんかできず
いけないという思いと裏腹に
腕は彼女の腰を抱き寄せていた
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