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二次会も終わり、伸晃と菜々子は式を挙げたホテルの部屋に戻ってきた。
菜々子はヘトヘトになりながらも、幸せを噛みしめているようだ。
「やっと伸君と私、夫婦になったんだね」
ベッドに横たわりながら笑顔を向ける菜々子を横目に、伸晃は祝儀袋を確認し始めた。
「……あれ? これ誰だろう」
煌びやかな祝儀袋に書かれた今日の参列者の名前を見ていると、一つ、名前の書かれていないものが紛れていた。
紅白の水引がプリントされたごくシンプルな封筒のそれを、伸晃は開けて手の上に傾けてみる。
「うわっ! な、何だこれ!」
封筒から、がさっと乾いた音を立てて大量の髪の毛が伸晃の手のひらに落ちた。
「伸君、写真がなんかおかしいの」
ベッドでデジカメを見ていた菜々子が伸晃に声をかける。
菜々子が怯えないように、伸晃は慌てて髪の毛をゴミ箱へと捨てて、菜々子の側へと向かった。
「ほらこれ。お義姉さん、シャッター切る時に指がレンズに触れちゃったのかな?」
菜々子があけた画像は、バージンロードを歩く新郎新婦の姿だ。しかし、新郎の伸晃の顔の部分に、黒い影がかかっている。
次の画像は誓いの言葉の後ろ姿。
そこも、伸晃の背中に黒い影が出ている。
しかし、その次の誓いのキスをする為に二人が向かい合った画像には、黒い影が二人の間に出ている。
「……なにかの……光の加減じゃないか」
言いながら伸晃は不安に駆られていた。
その影は、人の形にも見えなくもない。
そして次の画像を出した瞬間、菜々子が悲鳴をあげた。
誓いのキスを受けている花嫁が影で完全に消えていたのだ。
それはまるで、伸晃が影と誓いのキスをしているように見える。
「なんなのこれぇぇ!」
菜々子が怯えて、ベッドに突っ伏して泣き出した。
その後の画像を素早く見てみると、他の画像も影はあるものの、菜々子が消えるほどではない。
「きっとレンズの中にゴミが入ってて、それが影になったんだよ」
菜々子を落ち着かせようと伸晃は平静を装って話しかけた。しかし伸晃の顔はどんどん険しくなっていく。
菜々子の顔が少しづつ変わってきているのだ。
まさか、と思いつつ画像を進めていく。
すると、カメラに向かって笑顔を向ける花嫁の画像が出てきた。
その顔は、完全に別人の笑顔だった。
「美紗子っ……!」
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