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思わずその名前を呼んでしまい、伸晃は慌てて口を塞いだが、菜々子は何も言わない。
「菜々子……? 寝たのか?」
式の疲れもあるのか、気づけば菜々子の泣き声も治まっている。
そっとブランケットを菜々子にかけようとした時、菜々子が身動きをした。
「……びっくりした? 伸晃」
ゆっくりと身体を起こし微笑んだその顔に、伸晃は驚愕した。
「美紗子……!」
「海で別れたきりだものね。奥様、可愛いわね。
単純で、馬鹿で。簡単に入り込めたわ」
「お前……まさか海で……」
「あなたの側にずっと居られる方法を考えたわ。これからは、ずっと一緒よ。誓いのキスまでしたもの。この子は可哀想だけど、このまま眠っていてもらうわ」
「そんな事させるか!!」
伸晃は美紗子の上に乗り、思い切り首を絞めた。
「……出ていけ! 出ていけ!!菜々子の体から出ていけ!」
華奢な首を両手で力任せに締め上げると、美紗子が苦しげに顔を歪める。
「いやだっ! この体は私のものだ!!」
「違う! 菜々子の体だ!」
獣のような呻き声を上げ、歯を剥き出しにする様は悪霊そのものだ。伸晃は菜々子の体から美紗子を引き剥がす為に必死に美紗子を痛めつけた。
伸晃の努力の甲斐あってか、美紗子の抵抗が弱まって大人しくなった時、その顔は菜々子に戻っていた。
「……菜々子。起きろ。大丈夫か?」
伸晃が頬を軽く叩くが、菜々子の反応はない。
「菜々子? 菜々子!?」
動かなくなった菜々子を伸晃が抱きしめた時、テーブルの上から一枚の祝儀袋が落ちた。
それは大量の髪の毛が入っていた祝儀袋だ。
さっきは髪の毛しかでてこなかったが、落ちた拍子に一枚の紙と写真が出て来た。
それは、美紗子と伸晃が幸せそうに寄り添う写真だが、伸晃の顔はズタズタに傷付けられている。
それと同時に出てきた紙には、赤い字で一言、書かれていた。
『 幸せになんか、してやるものか 』
了
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