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あやかし会社 ─大きな古時計─
「シロ君、我が部署に入った新人の妖かしを紹介しよう」
カッパ課長がそう言って、うしろに立つ妖かしを紹介しました。
「野狐(やこ)のシロです。よろしくお願いします」
ぼくは腰を直角に曲げて頭を下げます。礼儀正しくとお母さんから教わったからです。
でも……。
「ほんにのう~、困ったのう~」
カッパ課長の横に立つ妖かしが、ひとり言をブツブツと言って聞いていません。
「あ、あのう、課長……どなたですか?」
「そ、それが色々とあったみたいで、この新人は記憶がないみたいなんだよ」
「き、記憶がないって……記憶喪失の妖かしですか!?」
ぼくは驚きながら、その黄色いクラゲのような妖かしを見ました。
ぼくは野狐のシロ、化け狐の妖かしです。
お母さんから巣立ったけれど、まだまだ半人前の妖かしです。
そのぼくがはたらくのが、この“あやかし会社”です。
アヤシイ会社ではなくて、妖怪がはたらく会社なのです。
人間をおどろかせたり、恐がらせたりするのが仕事の会社です。
すごく昔から、妖かしは人間をおどろかせてきました。
恐いという感情が、人間の生活を豊かにするからです。
未知のものを恐がることで人間は豊かになり、人生を大切に思うようになると教わりました。
「まあ、そーいうわけでここはひとつ、シロ君が新人の面倒を見てくれたまえ」
カッパ課長が無責任なことを言うと、ソソクサと向こうへ行ってしまいました。
前任のオニ課長が異動になったので、後任できたのはいいけれど無責任な妖かしです。
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