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私はまたしても、自分の家を見失い、さらには名前もなくしてしまった。
おばちゃんがミサキちゃんと呼ぶから、そうだっけと思っていたけど、違うようだ。
おばちゃんの記憶もごちゃごちゃだったらしく、おかげで私の記憶もしっちゃかめっちゃかになった。
"それは、大事なものをなくしたのねぇ……"
おばちゃんの言葉だけが胸に残る。
おばちゃんのこの言葉は、ケータイや鍵をなくした事を言っているのではなかったんだと、気付いた。
私は、大事なものをなくしている。
しかも、なくし続けている。
もう私は、何を持っていて、何を失ったのかも、わからない。
そんな状態のまま、フラフラと足だけが歩き出した。
どこからどこまで歩いたのかわからない。
そのうち、羞恥という感情をなくした。
そのうち、傷みという衝撃をなくした。
そのうち、空腹という欲求をなくした。
そのうち、悲願という想いをなくした。
そのうち、自分という存在をなくした。
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