これだけは、なくしちゃいけない。

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……あれ? ない。 人通りのまばらな朝の通勤途中。 家から歩いて職場に向かっていた私は、ピタリと足を止めた。 「うそ、忘れてきた……」 小さめのショルダーバッグは財布とハンカチ、ティッシュ、化粧ポーチですでにぎゅうぎゅう。 でも、肝心のアレがない。 「ケータイが、ない……」 一日くらいケータイなんてなくても困らない。そう思いながらも、本当に忘れてきたのか不安になる。 もしかして、来る途中で落とした? だって今どこにあるか、検討もつかない。 足元をぐるりと見てみたり、ちょっとだけ来た道を戻ってみる。 しかし、愛用のケータイの姿はない。 落ちてないなら、やっぱり家に置いてきたのかも。そう思う事にしようとしたけど、なんだか不安でたまらない。 別に私はケータイ依存症だなんていうほど依存はしてない。でも、いつもあるものがないというのは、とても落ち着かない気分にさせられる。 「ダメだ、会社に連絡して、遅れるって……って、だからケータイないんだってば」 連絡しようとして、今まさにないないと探しているケータイを取り出そうと、バッグやポケットを探る自分に腹が立つ。
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