これだけは、なくしちゃいけない。

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仕方なく会社まで歩いて行って、急な用事で休む事を伝えた。 とある会社の事務職をしている私。受付担当の女の子が「わかりました」と頷き「急な用事なら電話でも良かったのに」と気を遣ってくれた。 もちろん私だってそうしたかった。でもケータイがない。道の途中に公衆電話があったけど、使えなかった。 小銭はあったけど、使い方は知ってるけど、会社の電話番号がわからない。 これじゃあ、電話はかけられない。 受付の女の子には「たまたま近くまで来たからよ」と言ったが、かなり苦しい言い訳だろう。 でもそんな事をいつまでも悩んでいられない。ケータイを探さなくちゃ。 来た道を戻りながら、視線は足元を舐め回す。 そんなたいしたものではないけど、ケータイは個人情報の塊だ。もし本当に落としたんだとして、誰かが拾ったとしたら? たまたま拾った人が、善人で警察にでも届けてくれたならいいけど、悪い人だったら? 住所も名前も知り合いの連絡先も、写真もブックマークも、すべて見られたら? ……悪用されたら? 「そんな、まさかまさか……考えすぎ……」 身震いを押さえつつ、悪い考えを必死で否定した。
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