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家の前まで来て、ケータイが見つからなかった事に安堵と不安がせめぎ合う。
道になかったという事は、家の中にあるという事。
道になかったという事は、誰かが拾ってしまったという事。
玄関の前で強く首を振って、不安を追い払う。玄関の鍵を開けようとして、私の手が止まった。
……あれ?
ない。
「家の、鍵がない……」
ぎゅうぎゅうのショルダーバッグの中に、いつもなら入っているキーケース。
家の鍵と、車の鍵と、自転車の鍵と、会社のロッカーの鍵がまとめて付けてあったのに。
「……ない……っ」
ポケットにも、バッグにも入っていない。
玄関は開かない。
ケータイも探せない。
鍵も、なくしてしまったの……?
呆然と立ち尽くす私の肩が、後ろから叩かれた。
「……ミサキちゃん?」
「え?」
振り返るとそこにいたのは、近所に住んでいるおばちゃんだった。私が子どもの頃からお菓子をくれたり、お家に遊びに行ったりする顔見知りだ。
「どうしたの、ミサキちゃん。こんな所で」
「こんな所って……」
少し困ったような顔で、おばちゃんが言った。
「"うち"になにかご用かしら?」
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