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"うち"って……?
汚れてもいいように、それでいて動きやすいスウェット姿で、両手に軍手をはめ、片手に園芸用のスコップを持っている。もう片方の手には雑草を握っていた。
「お庭の手入れをしていたら、ミサキちゃんが血相変えて入ってくるから……」
そう言われて、やっと気付いた。ここは私の家じゃない。
いくら顔馴染みの人間でも、挨拶もなしに敷地に入ってきて、いきなり玄関の前で立っていれば、驚くだろう。
私は恥ずかしくて、逃げるように走り出していた。
走ったといっても数メートルで、振り返ればまだおばちゃんの庭が見える……はずだった。
「……あれ?」
振り返ったのに、おばちゃんの庭どころか、自分が今どこにいるのか、わからなかった。
そんなはずはない。二十数年両親とここに住んできて、この街の事ならなんでもわかる。
本屋、コンビニ、スーパー、バス停、駅、学校……。
知っているはずなのに、どうして私は、ここに初めて来たような感じがするの?
ここはどこ?
私のケータイはどこ?
家の鍵はどこ?
私の家は、どこなの?
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