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おばちゃんの家の茶の間は、私もよく知る場所だった。
小さなちゃぶ台も、ガラスの戸棚のお客様用コーヒーカップも、置物も、テレビも、年式遅れのストーブも、茶の間の窓から見えるきれいな庭も。
でも羞恥の塊となってしまった私には、居心地が悪くて当然だった。背中を丸めてぐずるくらいしかできない。
「あらあら、ミサキちゃんたら、小さい頃ここにお泊まりにも来たじゃないの」
「それとは違うもん……」
ちゃぶ台に湯気のたつカップが置かれた。ミルクたっぷりのカフェオレは私の大好物で、おばちゃんがいれると自分で作るより甘くておいしい。
ひとくち飲んでみると、それはカフェオレではなくミルクティーだった。
おばちゃんに今朝からの事をぽつぽつと話していく。
おばちゃんは、うんうんと聞いてくれた。
「それは、大事なものをなくしたのねぇ……」
「そ、そんなレベルじゃないよっ。確かにケータイも鍵も大事だけど、家の場所もわかんない……」
「ミサキちゃんのお家はわたしが知ってるわ。ちゃんと連れていってあげるから」
そう言って、おばちゃんは洋服を貸してくれた。おばちゃんの娘さんの服だ。
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