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……え?
「ごめんね、ミサキちゃん。この方ね、困って要らしたの、それで服を貸したのよ」
「もういいよ。お母さん帰ろ? あまり家から出ないでって言ってるのに」
おばちゃんが"ミサキ"と呼んでいるのが、私じゃなくてこの女性のように見えるんだけど……。
あの、と声を出す前に、女性が私へキツい視線を向けた。
「あ、その服もういいので。あなたにあげます」
「えっ、その私今……私の家に連れていってもらう所だったんです……」
さっさと行きたがる女性に、慌ててそう言うと、女性はさらにキツい視線で不可解そうに口を曲げた。そして声を少し潜めて早口で言う。
「お母さん、ボケちゃってるからあなたの家なんて知らないと思います。この辺の人なんですか? 私は知らないと思いますけど。それに」
一瞬、躊躇うような間があいた。
「あなたの言ってる事、お母さんがボケて来た時とちょっと似てるわ」
それだけ言って、おばちゃんの背中を押して歩き出した。私はこれが最後と決めて問いかける。
「あの、あなたはミサキさんですか?」
返事は……。
「違うわ、ミサキちゃんはお母さんの昔の友達の名前なの」
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