本気にさせないで

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知らなかったのは私だけだった。 おじいちゃんも伯父さんも樋山さんも、そしてーーー 志賀すらも知っていたそうだ。 陽日がまたうちの会社で働く事を。 志賀は今回は例の役員フロアのトイレで仕入れた情報ではなく ちゃんと内示で事前に聞いていたらしい。 この春から志賀はなんと営業一課の課長となった。 今年、30になるとは言え、やはり大抜擢だ。 まぁ、志賀の営業成績からすると遅かったくらいかもしれないけど。 その内示の時に陽日がまたうちの会社で働く事になる話をされたそうだ。 今度は課長となる志賀の元で営業のいろはを叩き込んでやって欲しいと。 後から聞いた話だけど陽日のお父さんからうちのおじいちゃんにその申し入れがあったらしい。 今の状態では使い物にならなくて跡を継がせてもうちの会社は何れ潰されてしまうと。 自分が教えるにも度々、親子喧嘩になって埒が明かない。 なので無理を承知で頼みたいと。 陽日を一人前にしてやって欲しいと。 どうやら例の件以降、時々、おじいちゃんと陽日のお父さんは会っているらしい。 陽日のお父さんも忙しい人だからいつもって訳じゃないみたいだけど。 自分の亡くなったお父さんの話をおじいちゃんから色々と聞いているそうだ。 陽日のお父さんもこれまでに無くしてきた何かを埋めようとしているのかもしれない。 私が前に陽日に対して足りない何かを埋めてあげれればって感じたように お父さんは自分自身でそれを今、埋めようとしているのかもしれない。
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