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少なくとも私は幼い頃から、女は男よりも2倍も3倍も執念深いものだとして生きてきた。何故かは聞かされなかったが、昔から女にまつわる話には、そういう類のものが多いのではないか。 東晋時代の志怪小説『捜神記』には、恋焦がれる男の手をすすいだ水を飲んで、挙句の果てに子を身ごもることになる女の話が出ていたと記憶している。なんとも奇怪で我々の想像の及ぶべくもない話であるが、もしかすると当時の中国では、このくらいしなければ理想の相手と結ばれることは難しかった可能性も、無いとは言いきれないだろう。最終的に話の女が産んだ子は、液体状のとても人間とは呼べそうもないもの、我々の知識で言うところの蛭子に該当するものであり、産まれてすぐに自然に還ってしまった。同情を呼びそうなことではある。 また日本には伝統的なのか、妻に先立たれた男の不貞が原因で、妻の霊魂を現世に呼び戻す、或いは留めてしまうケースも時々見られる。よく知られた話としては、小泉八雲の残した『破られた約束』が挙げられる。話の中で、自分が死んだ後は妻を娶らぬよう口を酸っぱくして言い聞かせて約束をさせた女が、夫の裏切りに憤怒の情を燃やし、なんと男ではなくてその新妻の首をもぎりとってしまう。死んだ妻の男への愛の故か、はたまた女の弱小さを示す故か、いずれにせよ新妻としてはたまったものではない。むしろ先に死んだ妻よりも化けて出る合理的な理由があろう。 また作者と本の名前は忘れてしまったが、随分個性的な女幽霊の復讐譚も日本には伝えられている。 ある男が、嫁というものがありながらもっぱら愛人とばかり戯れ、やがて嫁を疎ましく思い始める。そうして愛人と共謀した男は、嫁を殺して逆さまにして川向に埋めてしまう。それにより死ぬに死にきれない女は、夜な夜な近場の川に、逆さまになって火を吹きながら自分を家に渡してくれる人を探すこととなる。 結果的にこの女の復讐は成就する。逆さまになってまでどうしても意趣返しをしたいとは、女の執念が如実に現された一話ではないか。 文字数に限りがあるのでこれくらいにしておこう。 思うに、古今東西の綺談を狩猟すれば、男女双方の執念を表す話は同じくらい出てくるのではないか。ただ我々には女のケースが多く伝えられてきた。何故か。この裏に隠された意図を探求するのは、なかなかに有意義なことではないかと思う。
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