モノクローム・レインボウ

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 「近いうちに目が見えなくなるでしょう」と、白衣を纏った初老の医者が俺に告げた。  絵描きの仕事をしている俺はある日、自宅でキャンバスに向かっていると突然目に異変を感じた。 ここ数年大衆への露出が増え、『極彩色の魔術師』などというダサいコピーを付けて様々なメディアが取り上げてくれたお陰で、このところ仕事が爆発的に舞い込んでいたこともあり、最初はただの疲労だと考え深刻に捉えようとはしなかった。 しかし、それから数年経っても違和感は消えないばかりか以前に増して強くなり、俺はそこでようやく都内の大学病院を訪れた。  その医者の言葉をざっくり纏めると、脳の視神経の近くに出来た良性の腫瘍が、長い年月を掛けて徐々に肥大化して神経を圧迫し、俺の視覚に異常をきたしたという事らしい。そして、その腫瘍は摘出が非常に困難であり、手術で取り除く事は不可能という事だった。  「絵を描くお仕事をされているということで、あなたの視覚が元通りになるよう、私どもはベストを尽くして治療を行いますが、その努力が実る可能性は非常に低いと考えてください」  顎に白い髭を蓄えたその医者は、精一杯の渋面を顔に浮かべながらも淡々と告げた。
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