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タツオは双眼鏡をあげて敵の様子を確認した。手に汗をかいていると冷静に考えたのは一瞬だった。額から流れる汗が目に入ったからだ。涼しい秋風のなかで、自分は全身にびっしょりと汗をかいている。興奮なのか、恐怖なのかわからなかった。
敵の兵力は120名。4分隊を4つで96名。残るは最後の24名だった。敵は力押しできている。上空からの援護や野戦砲、地雷原のない時点で十分予想された戦法だった。
ジャクヤが叫んだ。
「敵第5派くる!」
タツオは自分の自動小銃をかまえながら叫んだ。
「総員射撃準備、撃て」
近くにいる敵に向かって銃撃を浴びせる。誰かに当たったようだが、喜んでいる暇などなかった。第1波の何人かがさらに距離を縮めていた。じりじりと匍匐(ほふく)前進で、こちらの塹壕まで30メーテルほどの地点にある窪地に集結していく。
「こいつは壮観だな。最後尾第5波の中央に敵指揮官確認、カケル頼む」
クニがそう報告すると絶叫した。電撃を受けているのだろう。深紅に変色した戦闘服のなかで身体がびくびくと波打っている。たとえ死者でも銃撃を受けるたびに、電気ショックが与えられるように設計されているようだ。
「だいじょうぶか、クニ」
テルが自動小銃を連射しながら叫んだ。息も絶えだえにクニがいう。
「こっちの心配するくらいなら、敵をなんとかしろ。どんどん窪地に溜まってるぞ」
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