10(承前)

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 タツオは訓練場を眺めた。ジャクヤの呪のせいか、すっきりと全体が目に収まる。敵の損失は3分の1強くらいか。50名近い兵士が模擬戦闘服を深紅に染めて、死体となって横たわっている。地獄のような光景だった。同僚の死体をものともせずに、つぎつぎと敵兵がこちらの塹壕に迫ってくる。みな、鬼気迫る表情をしていた。  目が血走り、かみしめた唇から血を流している者もいる。ソウヤが叫んだ。 「佐竹少尉、被弾。80式を頼む、谷」  ソウヤの巨体が塹壕の底に滑り落ちていく。ジャクヤがいった。 「実戦で80式に慣れた佐竹少尉が落ちたのは痛いとこやな。そろそろうちらの抗戦も幕か」  タツオは叫んだ。 「まだまだだ。テル、80式の弾幕を切らすな。ジャクヤ、きみがいって弾薬の補給をやってくれ。ミチルさん、この距離ならスポッターはもういい。自動小銃で援護頼む」  これは試験なのだ。ひとりでも多くの敵を倒したほうが成績はいいに決まっている。 「各自もち場を守れ。絶対に諦(あきら)めるな。自分たちの背に日乃元の国民がいると覚悟せよ。家族を守るんだ!」
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