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春色コッカテイル
小さな箱を持った僕の手に、薄桃色の花びらが一枚落ちてくる。
また、一枚。白いボール紙の箱の上に花びらが載る。
両手で持ったカステラの空き箱は驚くほど軽くて、僕はまた泣きだしている。
この中に君が眠っているなんて。
幼稚園の時から、ずっと僕らは一緒だったのに。君の時間は僕よりずっと早く過ぎて、僕を残して飛び去ってしまう。
中学生にもなって人目もはばからず泣くなんて、自分でも信じられないのに、その日は感情のストッパーがまったく仕事をしなかった。
花見客でにぎわう河原を見下ろす、土手の一本道。
そこを君の遺体の入った箱を持って、ただひたすら途方に暮れて歩いていた。
暮れかかってきた道に、出店の明かりがともりはじめる。街灯につり下げられた提灯が祭り灯籠のようだ。
目の前に大きな桜の木が見えた。
見る者を圧倒するような、幻想的な薄紅色の花の集まりだ。中空に漂う香雲から、音もなく花は散り敷く。かすかな香りが風にのって僕の頬を撫でた。
――泣かないで。
誰かに慰められているような気持ちになる。涙の筋が少しだけ乾く。
僕は道をはずれ、土手を少し降りて、その木の陰に膝をついた。
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