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鳥のさえずりが聞こえてきたのでベランダへ出てみると、4月だというのに日当たりの悪いせいで体がブルっと震えた。
アタシは隅に置かれている大きな素焼きの植木鉢を覗き込む。
哲ちゃんはアタシが喜ぶだろうと思って買ってきたらしいが、園芸趣味のないせいでつい最近までその存在すら忘れていた鉢だ。
植木鉢の上の枯れ葉をまさぐると、小さな住人たちがもぞもぞと蠢いた。
「ねーえ、朝だよ、朝。早く起きてよお」
女性らしいやわらかな声を作り、土の中へ呼びかけてみる。
「まだ眠いよー、もう少し寝かせてよ」
土や枯れ葉に潜む彼らからの返事はもちろんなく、返事をするのはアタシだ。
菜箸で枯れ葉を一枚ずつめくり、彼らを引っ張りだすと、愛らしく丸まった。
身を寄せて暮らす彼らは、平和の象徴みたいに思える。
ご飯食べた?……いい天気だねえ?……
などと、独り言を呟きながら、スコップで気ままに彼らに土をかけ、彼らの寝床をグチャグチャにかき回しては残酷にひっくり返す。
時には気まぐれに水を流して彼らを溺れさせ、また彼らが喜ぶ糧を与え、数が増えればきちんと間引きする。
踏みつぶすなんて野暮なことしたり、ハサミなんて凶器を使ったりしない。
胴体をバラバラにせずに上手に頭だけ落とすためには、切っ先の鋭い爪切りがいい。
――――アタシは世界の創造主。そして破壊者。
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