アナタニオボレル

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―――――― ――――  俺と彼女との出会いは、綺麗な満月の夜だった。  その日、夜釣りをのんびりと楽しんでいた俺の耳に、波の音に混じって微かに悲鳴のようなものが聞こえた。  時刻は真夜中。  自分の他にも釣り人は数名いたのだが、たまたま年輩の人が多かったせいか、誰も気が付いていない様子。  最初は俺の空耳かとも思ったが、やはり、甲高い声と水を激しく打つような音が聞こえる。 『誰かが海に落ちたのか?』  そう思った瞬間、釣り竿を放り投げて、声のする方へと駆け出す。  周りにいた人達も、俺のあまりにも鬼気迫るような態度に異変を感じて、数人がゆっくりとではあるが、追い掛けて来たのが分かった。 「……すけてー! ゴボッ! ゴフゥッ!」  助けを求める声と、ばしゃばしゃと水が跳ねる音に近付く。  真っ黒な波の合間に、浮かんでは沈む白い顏。  苦しそうに顏を歪ませ、必死に手をバタつかせている様子から、もう彼女には余裕がないことを察知した。 「女が溺れているぞー!」 「早く! 早く救急車をっ!」  後ろから追いついた釣り人達が叫び、スマホを操作しているが、そんなことをしている場合ではない。  夏とはいえ、冷たい海水に体力を奪われ、とうとう彼女の姿が波に呑まれて浮かんでこない。  後先考えずに俺は海に飛び込んだ。  彼女が沈んだ位置まで泳ぎ、潜水する。  背後から脇に片腕を差し込み、もう片方の手でライフジャケットの手動レバーを引いて膨張させると、もう片方の腕も脇に差し込む。  パニックになって暴れることなく、ぐったりとした彼女を早く岸に上げなくてはと、気持ちが急いて怒声を上げる。
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