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屋敷中を駆け回り、ありとあらゆる場所をひっかきまわし、泣きじゃくりながら枕を探し続ける未世に、葉山は何度目になるかわからない言葉を口にした。
「…………もういいですから、未世様」
そして、葉山は自分の左腕にある時計を見た。それは時計の形をしているが、表示されるのは時刻だけではない。葉山自身のありとあらゆる情報が表示される。もちろん、バッテリー残量も。
「残り時間が五分をきりました。もう、間に合いませんから」
ぐしゃぐしゃになった葉山の部屋の中で、未世は首を大きく横へふった。
「まだ…………まだ探していないところがあるから…………そう、地下室。地下室はまだ探していません。だから、今から行けば間に合うから」
「失礼ですが、お嬢様は怖くて地下室には入れないではありませんか。それに、私の枕がそのような所にあるとはとても思えません」
「でも、もしかしたら!」
「ですから、もういいですから、お嬢様」
そして、葉山は優しい笑みを浮かべた。未世がそんな葉山の表情を見たのはこれが二度目だった。一度目は、八年前。未世の両親が事故で亡くなった時。泣きじゃくる未世を、葉山は優しく慰め、いつまでもそばにいてくれた。
「それに、これもいい機会かもしれません」
「いい…………機会?」
「はい。八年前から未世様は、私達執事アンドロイドやメイドアンドロイド達に囲まれ、いつしかドールハウスと呼ばれるようになったこのお屋敷でたった一人でお暮しになってきました。けれど、未世様ももう二十三。就職もされ、身の回りのことも自分でできるようになられました。私達アンドロイドは必要ありません。ですから、この機会にぜひ、このお屋敷とアンドロイドを手放し、外の世界へと羽ばたかれるべきです。狭いお屋敷の中ではなく、広い世界で。ドールハウスのお嬢様としてではなく、未世様という一人の人間として」
そう優しく語った葉山は、ほほ笑んだままがくりと膝をつき、その場に倒れこんだ。
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