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「…………え?えっと、あの…………ほうきって…………」
「説明いたします。ほうきとは、清掃に使用する用具のことで…………」
「いえ、私もほうきがなにかというのは知っています。そうではなくて、ほうきって、いつも葉山さんが持ち歩いているあの掃除用のほうきのことですか?」
「はい。あれがないとやはりどうも落ち着かないのです」
こんな状況でなぜほうきなのか。不思議に思った未世だったが、言われたとおり後ろの壁にたてかけてあったほうきを葉山へと渡した。綺麗好きの葉山は、いつもこのほうきを持ち歩いていた。
「あぁ、これで落ち着きました。それでは、未世様。これにて失礼いたします」
そう告げると、ほうきを握り締めたまま葉山はゆっくりと目を閉じた。
「ま、待って!葉山さん!!お願い!まだ、まだ行かないで!!」
あっけないほどの突然の別れに、未世は葉山の体を揺さぶる。しかし、葉山が目覚めることはなかった。
「葉山さん…………葉山さん…………」
未世は繰り返し、何度も何度も葉山の名を呼ぶ。けれど、彼の目を開くことはなかった。
葉山は未世の家で、先々代の時からずっと執事として働いていた。未世が生まれたときからそばにいて、ずっと一緒で、これから先もいてくれると信じて疑わなかった。それなのに、なんてあっけない。これはなにかの冗談だろうか。信じがたい現実に、未世はあふれる涙をぬぐうこともなく、葉山に寄り添っていた。
そんな未世の隣に、人影が歩み寄る。
「なんてあっけない」
未世の隣に立ち葉山を見下ろしているのは、執事の藤堂だった。
「ずっと目障りで、どうやって消してやろうかと考えていたのに。充電枕をなくしたとか、バカじゃないのか」
突然のことに、未世は、藤堂がいったいなにを言っているのかすぐには理解できなかった。
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