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「葉山さんッ!!」
倒れた葉山を未世は抱き起こす。彼から流れ出るオイルが、未世のライトブルーのワンピースを漆黒に染めてゆく。
「新型と違い、旧式は中枢回路を貫かれてもしばらくは動くことが可能です。自分が旧式で本当によかった…………しかし、それももう限界のようです」
未世の腕の中でも、葉山の痙攣は止まらない。
「未世様、枕のこと、騙してしまい申し訳ありません。枕は地下室に隠してあります。新型の者たちは湿気を嫌って地下室には出入りしませんから、あそこがちょうどよかったのです」
「じゃあ、今すぐ行ってとってきます」
泣きじゃくりながら言う未世に、葉山は優しく微笑みながら首を横へふる。葉山のそんな表情を見たのは、未世は初めてだった。
「いえ、もういいのです。この状態ではもう必要ありません」
「すぐに…………今からすぐに研究所へ行けば、きっと!」
「ですから、あの研究所へは二度と行かないという約束のはずです…………いいですね、今後、決して行かないと約束してください」
「でも、でも、それじゃあ…………葉山さんが…………」
混乱する未世に、葉山はいつくしむような笑みを浮かべ、穏やかな声で語りかける。
「これでいいのです、未世様…………失礼ながら、未世様が私のことを想ってくださっていることを、私はずっと知っていました」
思わぬ言葉に、未世は驚き、その頬は朱色に染まった。
「私などにそのような感情を抱いていただき、本当に嬉しかったのですが、未世様の未来にとってその感情は障害以外のなにものでもありません」
「そんな…………そんなこと!」
「いいえ、未世様に……は幸せな未来を……選んで……いただきたいの……です。ですか……ら、これでいい……のです……」
痙攣とともに、葉山の声は途切れ始める。
「未世……様、どうか……この……お屋敷を出て……幸せに…………おなり……ください…………」
そして、葉山の体は動かなくなった。
「…………ッ!!」
…………町にある、誰もが知っている豪奢な屋敷。人形達もいなくなったその屋敷に、彼女の悲痛な声だけが響いた。
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