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考えていることを理解出来ないどころか、言ってることすら半分も理解出来ないのが現状だ。別の言語を話しているんじゃないかと思うことが結構ある。
「嗅いでいるんじゃなくて、吸っているんだよ」
「……生気を?」
「君には僕がヴァンパイアに見えるのか。あのね、フェロモンっていうのは無臭なんだよ。鼻から鋤鼻器官に入って、本能に訴えてくる抗い難い物質、堪らなく人間を高揚させるものを吸ってるんだ……たぶんね」
「たぶんってなんだよ」
「科学的には、人間はフェロモンを脳へ伝達する神経が退化して感じ取ることが出来ないと言われているから。でも、それだと説明しきれない衝動ってあると思わない?」
大きく口を開けて欠伸をした。ノアのこんな話は、いつもちょうど良い子守唄になる。言葉の半分くらいは右から左へ。
「だからね、君もきっと吸ってるんだ。アルコールが揮発するのに乗って、麝香に隠れて届く僕が分泌した物質を」
俺には匂いより抗い難いものなんて無いと思うけど。
……麝香、か。
上にかかる体重をよけて寝返りを打った。しっとりとした肌と擦れて、横向きで顔を合わせる。
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