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「君が来てくれなくて寂しかったんだ。分かるだろ?」
先程より声のトーンが高くなり、軽く冗談を言う口調だった。
何が寂しかった、だ。胸の内で悪態をつく。俺が入院していた部屋よりも広いこの個室は、豪華な見舞いの品で壁際を埋められていた。警察関係者の物もあるだろうが、あんな見るからに高い見舞品を持ってくる知り合いが腐るほどいるんだろう。
「ふむ、果物か。僕は花のほうが良かったかな」
抱えたバスケットのリボンを解いて、笑顔でそんな感想を溢された。
「気が利かなくて悪かったな」
ああ、この男のこういうところが嫌なんだ。歯に衣着せず、しかも俺の反応を楽しんでいる。
見舞いを今日まで躊躇ってしまったのも、この揶揄いに付き合うのが億劫だったことが大きい。
「ねえ、林檎が食べたいな」
バスケットから取り出した林檎を顔に寄せ、ノアがベッドサイドの棚を指差した。
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