part1.クレゾールと林檎

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「ご自由に」 その棚はベッドのすぐ側にあり、座ったままでもノアから届かないこともなかったので、意図を察していながらすっとぼける。 「ああそう」と言って、ノアはヘッドボードに片肘を付いた。 「じゃあ説明させてもらうけど、そこにはフルーツナイフが入っている。ちなみにこの話とは関係ないが、僕は君を守った際に腕を負傷しているんだ」 「……葡萄なら素手で問題なく食える」 「林檎が食べたいんだよ」 「林檎だって丸かじりできるが?」 「では訂正しよう。皮を剥いた林檎が食べたい」 「……ああ、そうですか。それはお上品なことで」 俺も持ってくるのは花にすべきだったと思うよ。 乱暴に引き出しを引いて、ナイフと、一緒に皿とフォークを取り出す。ノアが体を前に倒し、負傷しているはずの左腕でベッドサイドに置いてあった椅子を自分のすぐ横まで引いた。 「どうぞ」 半ば投げ遣りになって椅子に腰を下ろす。真っ赤に熟れた林檎を受け取り、左手で回転させながら皮を除いていく。
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