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様子だけ確認したらすぐに帰るつもりだったのに、こいつのペースに巻き込まれて座ってしまった。いつもならこんなことに付き合ったりしないが、助けてもらったことを考えると強く拒否できない。
それでも以前と変わらないノアの口調に内心ほっとしていた。
これだけ言い合いできる元気があるのなら体もそこまで心配いらないだろう。頻繁に現場に出入りしている探偵とはいえ、一般人を巻き込んで重体なんてことにはならなくて良かった。
「君は元気そうだね」
ひんやりとした体温に下顎を撫でられる。ノアがバスケットを横に置き、身を乗り出して手を伸ばしていた。白皙の指先に梳き上げられ、榛色の髪を耳の後ろへ流される。
「言っておくけど、今刃物を持ってるからな」
「怖いなぁ。ちょっと近くで確かめただけじゃないか。事件直後には僕より重傷だって聞いていたけど、無理して退院したわけじゃなさそうだね」
「あんたみたいな柔な体の造りはしていないんだ。というかそっちの入院が長すぎるんじゃないか」
「おっと。その柔な体の奴に助けられたのは誰だったかな?」
無言で触れられていた手を振り払う。
ノアは特に気にする様子もなくニヤニヤしていて、余計に苛立った。玩具にされるのは予想していたが、やはりこいつに助けられたことは大失態だ。
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