1007人が本棚に入れています
本棚に追加
櫛形に切った林檎にフォークを差し、皿を手渡す。
「なんだ、食べさせてくれるんじゃないのか」
「調子に乗るな」
しれっとそんなことを言う姿に、沸々と怒りがこみ上げる。
ノアはフォークを手に取ると、まじまじと目で林檎の輪郭を追った。
「ふうん。案外器用なんだね」
褒めているんだか貶しているんだか分からない言葉を吐いて、シャク、と小気味好い音で林檎が噛み切られる。
心地好い林檎の香りがする。うんざりするような消毒液の匂いが室内を満たす中で、少しだけ心が休まる気がした。
その事実に唖然とする。俺がここに来たのは怪我人の世話をするためでも、休息を取るためでもない。
束の間の安息を振り切り、口を開く。
「なあ、どうしてあんたは俺を助けたんだ。そもそも、なぜあの時あんな場所にいた」
喉を物が通る音がしてから、ノアは小首を傾げた。
「僕は偶然あそこを通っただけだよ。そこで君が暴行されているのを見つけた。不運な警官を助けて、地域の安全確保に協力した善良な一市民だ。他に何かあると思う?」
最初のコメントを投稿しよう!