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「警察と犯罪組織のトラブルにわざわざ入ってくるなと言ったんだ。あんたはあの時偶然助かっただけで、実際には死んでいたかもしれないと認識しろ。今度また同じことをすれば死ぬかもしれない。もうあんな無謀な真似はやめるんだな」
きつい言い方になったが、これはあの日からずっと考え、忠告しなければいけないと思っていたことだった。
ノアの表情が曇る。命懸けで助けた人間にこんなことを言われれば当然かもしれない。
「僕が助けにいかなければ君は死んでいたかもしれないんだぞ?」
「それは結果的に助かったから言える話だろう。あんたが助けに入って、二人して死んでいた可能性もある」
「じゃあ君は、僕に死にそうになっている君を見捨てて逃げ去れって言うのか」
「そうじゃない。急いでその場から離れて警察に通報すればいい。それだけであんたは立派に善良な市民としての義務を全うしてるよ」
警察は市民を守るために存在する。それなのに一般人を事件に巻き込んでしまっては元も子もない。
市民には事件に巻き込まれないよう最低限の自衛をしてもらわなけれならない。警官が暴行されている現場を目撃した市民が選ぶ"逃げる"という選択は、その自衛のひとつだ。決して臆病者がする選択ではない。
むしろ正義感なんて感情だけで介入されて死なれてはこちらが困る。
ノアは眉根を寄せ、八等分に切られた林檎を大きく口に含んだ。質量が大きいので頬を膨らませながら噛み砕いている。
ベッドの上に伸ばしていた脚を引いて胡座をかき、ごくりと喉を鳴らす。
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