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署に戻ると人伝に俺を呼んでいた上司の元へと急いだ。
油性ポマードの飴のような甘い匂いを辿り、開きっぱなしの扉をノックするとデスクに向かっていたジョージ・マクダウェル警部はオールバックに固めた髪を乱すことなく顔を上げた。長引く凶悪事件のせいでそこには疲労が滲み出ている。
「気分はどうだい。本当ならもっと休ませてあげたいところだが、相変わらずそうも言っていられない状況でね」
「いえ、もう万全です。今回の件ではご迷惑をお掛けしました」
岩のように角のある顎を指で撫でながら、マクダウェル警部はしっかりと俺の体の無事を確認していた。
「君が無事で良かったよ」
珍しく、いつもはへの字に曲がっている口の端を上げて笑ってみせる。
組織犯罪課の奴らも目じゃないほど迫力はあるが、マクダウェル警部は実に人情味溢れる刑事だ。その厚意に助けられた過去があり、警部の懐の深さは身をもって知っていた。
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