part3.アッサムとセイロン

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探偵ノア・カーネイルの自宅兼事務所は出版社や新聞社が軒を連ねる通りを曲がった一等地にあった。一階は古びた金物屋があり、建物を半分囲うように生えた外階段から二階の事務所へ向かう。 相変わらず気は重かった。直前になって一緒に来るはずだったフィリップが資料を集めきれていないと言い出し、先に行く羽目になったので尚更脚を進める速度は遅くなる。 そこは仕事の都合で過去に何度か出入りしたことがあるこぢんまりとした私立探偵の事務所とは似ても似付かなかった。 色を統一された家具。しっかりとした造りのソファに、洗練された観葉植物。 どちらかというと、趣向の違いはあれど売れっ子弁護士の事務所に近い。背表紙の高さで整えられた本棚を分厚い法律書に差し替えたらまさにそんな感じだ。 「ようこそ、僕の事務所へ」 デスクの奥で皮張りの椅子に座っていたノアが立ち上がる。 「寄るな!」 そのままこちらに歩いてくるノアを見て、俺は肩を背後の壁に張り付けた。
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