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穏やかな草花の香りが鼻を抜ける。
いつもと同じ香水のミドルノート───揮発性の違いによって三段階に変化する香水の香りの、トップノートに続く二番目の香りだ。
俺は香水を身に付けないが、いつだったかこの男にそんな説明をされたことがある。
いつもと違うのは匂いの発信源が本人ではなくベッドサイドからしているということ、そして匂い自体がかなり弱いことだ。病院特有の消毒液の匂いに打ち消されて普通の人間なら近くに行ってやっと気付くか気付かないかの度合いだろう。個室で他の患者の迷惑にはならないとはいえ、入院中もつけるほど気に入っている香りのようだ。
男の名はノア・カーネイル。職業は探偵。
俺の上司であるマクダウェル警部のお気に入りらしく、何度か捜査協力のために現場を出入りしている姿を見たことがある。しがない刑事である俺の何がそんなに気になるのかは知らないが、会う度にちょっかいを掛けられるので俺はこの男が苦手だった。
しかし数週間前、連続殺人犯を追っていたところを組織的な麻薬取引の現場に遭遇してしまい、絶体絶命のピンチをよりにもよってこいつに助けられた。
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