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扉のすぐ側で俺は立ち尽す。ベッドの上の男は何も言ってこない。こちらの出方を窺っているようだった。
廊下での状況とはまた違った居心地の悪さを感じながら早足で男に近寄り、手に持っていたバスケットを真っ直ぐに差し出す。
ライトブルーの寝衣から透けるほど白い腕が伸ばされてバスケットの取っ手を掴むと、それは膝の上に乗せられた。
「……げ、元気そうだな」
やっとのこと絞り出したのはそんな気の利かない台詞だった。
ノアが口を尖らせた。一見クールでお上品な顔立ちが子供っぽい表情を見せる。
「元気だと思うかい。君が来てくれなかったのに」
「仕方ないだろう。俺だってついこの前まで入院していたんだ」
「ああ、同じ病院にね。それで、君は退院して何日経つ? 恩着せがましくするつもりはないが、動けるようになったなら一番に僕のところに来るものじゃないかな?」
「それは……」
俺だってこいつの身が心配でなかった訳ではない。
知り合いでもある恩人に何かあったらと考えて、最初の夜は気が気でなく眠れなかった。怪我はあるが命に別状はないと同僚から聞かされた時、どれだけ安堵したか。
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