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朝から雲行きの怪しかった空。
午後の授業が始まる頃には、ポツポツと雨が降り始めていた。
「今日の部活、サボらねえ?」
「先輩にしばかれるぜ」
「雨だと筋トレだぜ。マジうぜえ」
サッカー部の奴らが、掃除とは言えないような履き方で箒を振り回しながら、部活をサボるかの会談をしている。
俺は帰宅部だから、黙って真面目に掃除をするんだ。
別に綺麗好きってわけじゃないさ。
サボるとか、ウソつくとか、そういうことを器用にできない鈍臭い性格なだけで、俺の心には正義感も真面目さの欠片もなかった。
ロッカーの前を履いていると、鈍い金属製の物を見つけた。
「カギだ」
赤いヘアゴムが通している。
自転車の鍵だろう。
赤のゴム……きっと女子のだ。
自転車通学の奴はけっこういるが、女子では砂山さんと谷口さん、そして……朱里(しゅり)。
「おーい、タツ! いい加減ホームルーム始めるからよ、掃除を終わらそうぜ」
「すまん」
サッカー部の奴に声をかけられ、俺はそのカギをポケットにしまい込んだ。
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