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ホームルームが終わった後も、俺は少しゆっくりと帰り支度をしていた。
本降りになる前に、きっとみんなは慌てて帰宅するのだろう。
体育館は、部活の奴らでごった返すのだ。
文句を言っていたサッカー部の奴らも、結局先輩が怖かったのか、北校舎の外階段をダッシュで昇り降りしていた。
「蒸し暑い」
そんな放課後。
校門脇の駐輪場に、女子が一人で鞄の中をひっくり返していた。
……そう、朱里だ。
カギの内側に『S』のイニシャル。
きっと彼女だと確信していた。
「どうした?」
「ああ、龍也君。カギ無いのよね」
「何の?」
「ここで『何の』は変でしょ。
自転車の鍵に決まってるじゃん」
「威張るな。鈍臭いくせにさ」
「ほっといてよ」
会話しながらも彼女は、スカートのポケットに手を突っ込んでみたりと忙しく手を動かしていた。
俺は少し勇気を出して言ってみた。
「あのさ、教室に落ちてるんじゃ無いの?」
「ああそっか!
これだけ探しても無いんだもんね。
ね、龍也君、探してきてよ」
「俺が?」
「うん。龍也君、掃除当番だったでしょ。あたし確かに鞄にゴムでくくっておいたんだよ。
赤いゴムのついた鍵、落ちてなかったかな?」
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