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「まあいいや。けどさ、本降りになってきたぜ。
探しても無かったら、俺の傘で帰らねえか?」
「うん。無かったらお願いね」
ポンッと俺の肩を叩いた。
そうさ、これが目的だったんだよな。
朱里とは悪友みたいなものだった。
小四の時に同じクラスになってから、腐れ縁で何故か近くにいる。
中学に上がって、あいつの制服姿を見たとき、改めて「可愛い」と思ったんだ。
けれどさ、親しさ余って、「好き」などこっぱずかしくて今更言えるはずも無い。
ーーあいつにも彼氏の気配が感じられないし、この雨とこの鍵はある意味チャンスかな……
俺は駆け足で教室に戻った。
窓越しに空を見る。
雨は益々激しくなっていた。
ポケットから鍵を取り出した。
ーーさて、この鍵をどうしようか。
「あったよ」と渡す?
イヤ、やっぱ、無かったふりして俺の傘で、相合傘をして帰ろう。
他の奴らにからかわれるだろうか?
ーーいいさ、それも。
俺は朱里の自転車の鍵を、彼女のロッカーの奥に放り込んだ。
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