ウソ のち 失恋

5/6
前へ
/6ページ
次へ
「ごめん、見つけられなかった……」 大きめの黒いジャンプ傘を差して、駐輪場に戻った。 ーーいない? 自転車は置いたまんま。 カゴの中にくしゃくしゃに丸めた紙を見つけた。 〈ごめんね。先輩に誘われた〉 ボールペンで書かれた丸文字のメッセージは、俺に伝える気など無かったのだろうか? それとも俺の戻りを待っていたのだろうか? ふんわりとゆるく丸めたその握り方に、意図を感じてしまうのは、何の未練だろう。 最後に書かれたハートマークの意味を知りたくて、俺は朱里が帰る道をスプリントの如く、走って追った。 ーー鍵は見つけられなかったよ。だから俺と帰ろう。 あいつを見つけたら、そう言うつもりで…… ーーズルをした罰かな? 二本角を曲がったところで後ろ姿を見つけたよ。 キャラクターの刺繍付きはダメだって先生に叱られて、折り返した黒いソックスは朱里だから、間違いない。 一こ上の先輩に肩をくっつけ、相合傘で帰って行った。 素直に鍵を返せば良かったのかな? わからないや。 傘が鬱陶しくてさ、俺は傘を閉じて濡れながら帰ることにした。 でないと、ね。 男は泣きたくないからさあ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加