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「ごめん、見つけられなかった……」
大きめの黒いジャンプ傘を差して、駐輪場に戻った。
ーーいない?
自転車は置いたまんま。
カゴの中にくしゃくしゃに丸めた紙を見つけた。
〈ごめんね。先輩に誘われた〉
ボールペンで書かれた丸文字のメッセージは、俺に伝える気など無かったのだろうか?
それとも俺の戻りを待っていたのだろうか?
ふんわりとゆるく丸めたその握り方に、意図を感じてしまうのは、何の未練だろう。
最後に書かれたハートマークの意味を知りたくて、俺は朱里が帰る道をスプリントの如く、走って追った。
ーー鍵は見つけられなかったよ。だから俺と帰ろう。
あいつを見つけたら、そう言うつもりで……
ーーズルをした罰かな?
二本角を曲がったところで後ろ姿を見つけたよ。
キャラクターの刺繍付きはダメだって先生に叱られて、折り返した黒いソックスは朱里だから、間違いない。
一こ上の先輩に肩をくっつけ、相合傘で帰って行った。
素直に鍵を返せば良かったのかな?
わからないや。
傘が鬱陶しくてさ、俺は傘を閉じて濡れながら帰ることにした。
でないと、ね。
男は泣きたくないからさあ。
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