第2章

1/1
前へ
/6ページ
次へ

第2章

 達也がみつかった。  南米パラグアイのサッカーチームの試合に出てゴールを決めたというのだ。  凛乎と達也は、高校時代に付き合っていた。  京急川崎駅から徒歩5分の進学校だった。  凛乎は達也にひと目ぼれしてしまった。入学前の京急川崎駅構内の大師線に続く階段ですれ違った。  「あっ、カッコいいなぁ」。  それで終わるはずだったが、高校に入学して1週間後、同じ階段でまたすれ違った。同じ高校の真新しい制服だった。15歳の幼い思考回路で運命を感じた。追いかけて背中越しに声を掛けた。  「付き合ってください」。  それが達也との出会いだった。      ◆      ◆      ◆  達也はサッカー部、凛乎はバレーボール部。  美男美女のカップルで学内でも話題となった。  達也はJリーグの1部チームからも注目されるFWで将来の日本代表とも呼ばれ、U-15代表にも選出されていた。  ただ、極度のあがり症で、ここ1番という試合で凡ミスを繰り返し、県大会決勝でいつも涙を飲んでいた。  高3のインターハイも選手権も県の決勝大会で負けた。どちらも達也がPKを外して、勢いに乗れなかった。  それでも、その抜群のサッカーセンスからJ1の7チームから声がかかった。 達也は悩んだ挙げ句に大学進学を選んだ。サッカー部のない大学の法学部だった。  「オレ、弁護士になって凛乎を幸せにするよ」。  凛乎にとって高校3年間は、気の弱い達也を励ます長い歳月だった。サッカーをしている達也が輝いてみえたのに相談もなしに弁護士を目指す話をされた。悲しくなって、達也と大げんかをした。       ◆      ◆      ◆         結局、大事なことは相談もされず、勝手に人生設計を決めてしまう達也の身勝手さに感情的になってしまった。  「あたしの3年間を返してよ」。  勢いで出した歌手のオーディションで当せんしてしまった。  それが「月影舞踏団」だった。  契約書には「特定の男性がいる場合、別れていただきます」との条項が明記されていた。  達也を呼び出し、別れを告げた。  2人が初めて出合った大師線へつながる階段の途中だった。  笑ったような、泣いたような、驚いたような、最後はPKを外す直前の追い込まれた表情を浮かべて、何も言わずに人混みに消えていった。  それが達也を見た最後だった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加