0人が本棚に入れています
本棚に追加
第1章
クーラーボックスと道具箱を車輪のついたキャスターにくくりつけて、プラットホームを転がす。
かぶった帽子から亜麻色の髪の毛がこぼれて風にそよいだ。カッパを着込んだオジサン釣り人に交じって、凛乎(りんこ)が歩くと、それだけで目立つ。
朝6時35分、堀之内駅。やや曇り、釣り日和だ。
◆ ◆ ◆
堀之内駅構内は、毎朝、釣り竿を肩にかけた釣り人でごった返す。横須賀・新安浦港から出船する釣り船に乗り込む釣り人たちだ。
凛乎は、自宅の最寄り駅が青物横丁駅であることから、釣りに行くときには、京急線に乗る。5時45分、青物横丁駅を出発する特急三崎口駅行きに飛び乗る。品川駅ですでに何人かの釣り人が乗っていて「釣り人電車」の様相を呈している。
車内で釣り人同士が会話することはない。
ただ、「よし、釣るぞ」と背中を押してくれそうな空気の充満している、この車内に宿る釣り人だけが察知できる緊迫した雰囲気が、凛乎は大好きだ。
ボルテージが上がるほどワクワクしてきてしまう。釣りだけなら、どんな緊張感でも乗り越えられる自信があった。
最初のコメントを投稿しよう!