病室

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朝になり、病室で朝食を食べている野口の元に林が来た。 『話って何?』と問う林に。野口が話し出そうとした瞬間、病室にスタッフが入って来たので、野口は口に出しかけた言葉を飲み込んだ。林は病室を後にした。朝食を食べ終わった野口の元に、再度林が来て。『話って何?』『退院前に林さんに言いたいことがあって。』野口が言い終わるとまたもや、病室にスタッフが入って来たので、野口は続けて話そうとした言葉を飲み込んだ。『もう私帰るで。』と静まり返った病室で、痺れを切らした林が言った。その言葉を聞いて野口は『気を付けてお疲れ様でした。』と特に言わなくてもいいことを言った。病室と廊下に朝の慌ただしさが戻った。大切なことは言えないのに、言わなくてもいい事は簡単に言える。野口は怪我をしてから、一寸先は闇という言葉を肝に命じていたのに、大事な時に大事な事を言えなかった事ともう言えるチャンスはないかもしれない事を後悔した。 野口は大事な事を伝えようとした時に、不自由な体の人から告白されたら、迷惑なのではないか?という考えが脳裏をよぎったので、言葉に出せなかった。
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