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シュウの運転する車の助手席に乗り込んだフィアは、腰を下ろしたことによって落ち着いたのか、心の中で声を発する。
具体的には、自身の中に居る、もう一人の自分に向けて。
『フィナ、聞こえてる?』
『はい、よく聞こえています。どうなさいましたか?』
自分の中から反響する声。
少しだけ意識を表側へ浮上させた、二人目の人格……フィナのものだ。
『あのね、今日のことを謝ろうと思って……フィナ、ごめんなさい』
『……? 何故、フィアが謝るのですか? 私には心当たりがないのですが』
フィアの謝罪に、当然のように疑問を持つフィナ。
するとフィアは、申し訳なさそうに言葉を続ける。
『だって……今日の授業参観、一度もフィナに代わってあげられなかったから……フィナだって、授業受けるようになって、がんばってる姿、パパに見てもらいたかったはずなのに……』
『ああ……その件ですか。でしたら大丈夫です。私は気にしていませんから』
そんなフィアに、フィナは静かに、けれど優しく気遣った。
フィアがなにか答える前に、更にもう一言。
『それに……私はつい最近になって、学校へ通うようになった身です。フィアは今まで三年間、パパが忙しくて授業参観に来れないでいた間もがんばっていたのですから……今年はフィアが、三年分報われる日であるべきです。私には、また来年以降があります故』
そのフィナの声は、疑いようもない本音であり。
だからこそ、フィアは心の底から、その言葉で報われた気分になったのだ。
『えへへ……ありがとう、フィナっ』
『どういたしまして……です』
意識の浅いところで会話しているので、相手の表情は見えない。
けれど、お互いの心には、笑みを浮かべた相手の顔が鮮明に浮かんでいた。
「……フィア、今日このまま、メシでも行くか」
「えっ、いいの!? パパ、お仕事は……?」
今度は、隣の運転席から思わぬ提案が。
フィアの表情が、一気に晴れやかになる。
「今日は一日フリーだからな。シンとアスカの送迎はルミに任せて……遊びに行こう、内緒でな」
「それって……パパと二人っきり? パパと……デート?」
「……ああ、そうだな。デートだな」
フィアの問いに、照れもありながら、喜んでくれるならいいか、と特に否定はしない。
「えへへっ。大好きだよ、パパっ」
彼の隣には、素敵な笑顔が溢れていた。
……to be continue,
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