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二学期が始まって早二週間、そろそろ夏休みボケが治り友達との久々の再会への興奮も収まりつつある頃、俺は一人屋上にある柵にもたれ掛かって昼飯を食べていた。
数年前に生徒がふざけて屋上から落ちそうになったとかで、改装工事の際にかなり高い柵が設けられている。
屋上という教室よりも開放的な場所にいながら、何本もの冷たい鉄の棒からは閉塞感と圧迫感を感じる。
食べかけのコンビニおにぎりはただただしょっぱくて、微糖のコーヒーは必要以上に甘く不健康な感じがした。
取り敢えず持ってきた英語の単語帳も今は開く気になれず、手持ち無沙汰な時間を過ごしていた。
しばらくぼーっとしていると、徐に屋上の扉が開いた。
そこには私服の男が立っていて、男は俺を見ると一直線にやってきた。
「よぉ」と一言発すると、さも当たり前のように俺の真横に座った。
俺は努めて冷静に拳一個分ずれたが、男はまたも距離を詰めてきたので大人しく離れるのを諦めた。
この男にはパーソナルスペースという概念が無いらしい。
「あの、何の用ですか?」
何となく誰とは聞けなくて、男が現れた時から考えていた別の質問をした。
男は大人というよりもまだ青年の感じが抜けていないような若い顔をしていた。
「俺ここの卒業生なんだけどさ、ちょっと仕事でここら辺来たら学校が懐かしくなっちゃって。
で、来てみたはいいけど、俺の卒業した後に改装工事したみたいで学校の中がよく分かんなくてな。
取り敢えず俺も昔常連だった屋上に来てみたら君が居たという訳だ」
初対面なのによく喋る奴だ、と同時に一応危険は無さそうで安心した。
よく見ると来客用のスリッパを履いている。
「そこでだ、君に校舎の案内を頼みたい」
想像していた展開だが、こちらもこんな急な要求にはいと答える気はさらさらない。
「すいません。俺今忙しいんで、他の人当たってもらえますか」
「ここでぼっち飯してて携帯よりも単語帳持ってる奴が忙しいとは思えないんだけど?」
間髪を入れずに男が言った。
初対面なのに本当によく喋る上に、デリカシーのない奴だ。
俺の表情を見て半笑いしている男の顔は俺のイライラを加速させた。
「立派な大人には分からないような悩みが学生には沢山あるんですよ」
しかしそこはさらっと流され再度笑顔で聞いてきた。
「まぁ、いいや。じゃあ、いつなら良い?放課後?」
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