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「だから、無理ですって。つーか、あんたいつまでここにいるつもりだよ」
「君が案内してくれるまで」
男は飽くまでも俺にこだわっているようだった。
「それで、了承してくれたら何でも君の言うこと一つ聞いてやるよ。あ、言い忘れてたけど俺タカハシユタカ。君は?」
「…サイキユウト」
「漢字何、下の名前の」
「優しいに人って書く」
「ふーん、良い名前だね」
自分から聞いたくせにさして興味がないような返事に俺はただ「はぁ」としか言うことが出来なかった。
名前を答えてしまった以上、抵抗するのも無駄に思えて仕方なく立ち上がった。
「…今から案内してやるよ。」
「えっ、昼休みもう終わるんじゃないの?」
「俺次の授業出ないから、別に問題無い」
男は眉間に皺を寄せた。
「何で?」
「体育、苦手なんだよ」
「何で?」
男は俺の言い分を信用していないようだった。
初対面のくせに変に勘の良い奴だ。
面倒臭くなって、俺は別の質問をした。
「じゃあさ、さっきの願い事。俺が死んでって言ったら?」
「死ぬよ」
初めて聞く低い声色に一抹の恐れを感じて男の顔を覗くと、やはり目を細めて笑っていたが、その奥の眼差しは真剣そのものだった。
「それが君の望みなら」
先ほどとは打って変わって優しく言った後、また軽い調子に戻り「でも案内してからね」と言った。
学校のチャイムが昼休みの終了を知らせた。
「で、何で次の体育出ないの?」
さっきよりも強い口調に何でも見透かしてしまうような男の眼を思い出し、俺はため息を吐いた。
「今の時期、男子の体育は野球をやってんだけど、俺だけノックの数が多いしデッドボールも多いんだ」
「ただの練習とか、ミスじゃなくて?」
「俺が痛そうにしてると声をあげて笑ってるやつがいるから、たぶん意図的」
「クラス全員にやられてんのか?それとも一人に?」
「いや、三人の男子のグループ。実質は一人の強い奴に残りの二人が付いて回ってる感じなんだけど」
「その強い奴にいじめられてんのか?」
「そう。でもそいつ、飛田って言うんだけど、そいつは絶対に自分は手を出さないで子分にやらせるんだ。一応そういう状況で顔をしかめるやつもいるけど、そいつらは何も言わない」
「ふーん、それでいじめられてクラスメイトの助けもなくて辛くて死ぬってずいぶん短絡的だな」
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