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そして、
食べ慣れたショートケーキを口に運ぶ。
「甘いな」
つい出る口癖だ。
自分が歩んできた道を信じる。
それ以外ないよなと、
自分に聞かせるようにケーキを口に運ぶ。
男は自分の信念に沿って生きてきた。そうやって振舞ってきた。頼れるのは自分だけと思ってきた。
だけども、
そうではなかったかもしれないと疑心が生まれ、口を満たす甘さを消していく。人に頼ることを。
だが、
少なくなるケーキとともに積み重ねられた経験と数々の修羅場をくぐり抜けて身に付いた信念が男を現実にと引き戻す。
「ごちそうさま」
会計をすました男は、
財布の中を整理しつつ、店内を見渡した。
しゃべりに夢中な年増の女、
スマホを見つめる茶髪なスーツの男、
政治を語るあやしい老人たち、
事業を語る初老の男とそれを聞く若いスーツの男、
ゆったりした定員。
たったわずかな時間でも見える景色は変化する。そうして男はふたたび暑さが残る外に出た。
(カラン・・・)
入れ替わりに若い女が入る。
「いらっしゃいませ」
定員の声が耳から遠のいていくと、もうショートケーキの甘さは消え、すれ違う戦士たちに混ざり、一万人を守る精悍な男へと戻って行った。
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