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コンパス、名簿、メモ帳、ボールペン赤黒、うちわ、500mlのペットボトルに入った飲料水が二本。これが、秀都のリュックサックから出てきた物品の内訳だった。
「へえ、意外と……」
「なに?」
「いや、なんでもない。ウェットペーパー的なものでもあれば良かったんだけどな」
「え? あたしの荷物の中にはあったよ?」
「えっ」
見ると星華は、既に何枚か取り出して左腕の肩付近の血を拭いている。
「取れるんだ、それで」
「超強力! って書いてるし」
星華のリュックの内訳は、地図、ウェットペーパー、乾パン、時計。
返り血を浴びた彼女の荷物にウェットペーパーが入っていたのは不幸中の幸いか。
「人によって中身違うんだね、ってかうちわって、絶対ハズレじゃんダッサ」
「うるさ。いつか役に立つ可能性もあるかもしれないじゃん」
「ないない」
ケタケタと笑う少女を見て、吊られて頬が緩む。
体育館で目の当たりにした不気味な少女の目論見を「潰す」と決めたはいい。さぞかし大変な道のりになるだろうと思っていた。だが今、目の前の少女と緩慢な会話をしていると、どうにも現実味が失われていく。本当に俺達は、殺し合いなどに巻き込まれているのだろうか。この少女の肩の血は、もしかしたら何も関係のないもので――。
秀都は自分の置かれている立場をまだ十分に理解していなかったのかもしれない。星華は、荷物をまとめて立ち上がると、さも当然かのように言い切った。
「じゃあ、そろそろ殺しに行きますか」
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