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香織の書斎には表玄関側のドアの他に
もうひとつ出入り口があり、そこから奥は
完全に彼女の住居だ。香織の生活の細々と
した用を担っているのは、香織がまだ都心の
マンションに住んでいた頃から長く勤めて
いる桑田玲子である。
アラーム音で目覚めた美奈子が事務室の
一角にあるミニキッチンで冷たい水を飲んで
いると玲子が奥で呼んでいた。
「美奈子さん、お昼、早く食べちゃって下さい。」
「はーい。」
美奈子はまだはっきりしない頭で返事した。
玲子は仕事を苦にしない楽天家だが、若い頃
夫の部下に恋をして離婚した。家を出たとき
には子どものことなんて考えもしなかったと
笑い飛ばす。いかにして夫に離婚届に署名・
押印させるかに腐心していたらしい。
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