第3章 砂の城

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香織の書斎には表玄関側のドアの他に もうひとつ出入り口があり、そこから奥は 完全に彼女の住居だ。香織の生活の細々と した用を担っているのは、香織がまだ都心の マンションに住んでいた頃から長く勤めて いる桑田玲子である。 アラーム音で目覚めた美奈子が事務室の 一角にあるミニキッチンで冷たい水を飲んで いると玲子が奥で呼んでいた。 「美奈子さん、お昼、早く食べちゃって下さい。」 「はーい。」 美奈子はまだはっきりしない頭で返事した。 玲子は仕事を苦にしない楽天家だが、若い頃 夫の部下に恋をして離婚した。家を出たとき には子どものことなんて考えもしなかったと 笑い飛ばす。いかにして夫に離婚届に署名・ 押印させるかに腐心していたらしい。
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