第1話―それは突然に―

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■ ある程度の引継ぎが終わり、3人とも少し距離が縮まりはじめ ようやく私の社会人生活がスタートし始めた。 少しずつマネージャー業が何なのかわかってきて、つたないながらに仕事をこなしていたある日 転機が訪れた。 「ね、愛莉ちゃんって彼氏いるの?」 「彰さん…今打ち合わせ中なんですが」 「いないんだ!やったー!」 「人の話聞いてます!?」 「じゃあいるの?」 「……いませんけど、何か?」 「よかったー!俺も今ちょうどフリーだよー?」 「聞いてませんけど」 「ごめんね愛莉ちゃん、こんな奴で」 「千裕さんが謝る事ではないですが、悪いと思うのであれば打ち合わせを進めやすいように彰さんを黙らせる努力をされたらいかがです?」 「相変わらずきっついねー、社長そっくり」 「あの人と一緒にしないでください」 「あははは!ごめんごめん。でもね、愛莉ちゃん…彰の行動、少しだけ大目に見てやってくれないかな?」 千裕さんの雰囲気が、いつになく真剣になった。 3人の中で一番真面目で、誰より努力家であるはずの千裕さんが 彰さんの行動を大目み見ろと真剣に言ってくる。 理解はできなかったけど、ここは察するべきだろうと思って私は口を閉じた。 「彰…それから俺と雄介の3人は幼馴染って事、知ってるよね?」 「ぇえ…幼稚園からずっと一緒なんですよね」 「そう。家が3人とも近かったからね、自然と仲良くなったよ。いつも行く公園に必ずこの2人と…あと一人、女の子がいたんだ」 この時の私は、まだ自制があった。 この人たちはアイドルで、私が容易に近づける存在じゃないと。 「俺たちさ、その子を探してるんだ」 「名前も顔も、本当のところよく覚えてないんだけど…もう一度会いたいんだよね」 「…まさか、3人の初恋の人とかですか?」 冗談だった。 あまりに真剣な3人の顔に、茶々を入れただけだった。 なのに… 「そうだよ」 「え…」 興味本位で開いたその箱は 「あの時、4人で遊んだ事がずっと俺たちの中から消えてくれないんだ。あの女の子の、スズランの花が大好きだった女の子の事がね…俺たちが芸能界に入ったのは、その女の子を探す為なんだ」 パンドラの箱だった。
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