第2話―混乱と共に―

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程よい低音。 透き通る高音。 絶妙な長さのビブラート… どれを取っても彼の歌声は、素人の私が聞いてもすごいとわかる。 「雄介の事、ごめんね」 「え?」 雄介さんの歌声に聞き入っていると、千裕さんが声をかけてくる。 「あいつは不器用だから、どうしてもあんな態度になってしまうんだけど、根は悪い奴じゃないから。許してやって」 「…許すも何も…お仕事ですから。それに私根にもつタイプでもありませんから」 「愛莉ちゃんってさ、本当…なんていうか素直だよね。あの子によく似てる」 「えっ…」 一瞬、心臓が止まった。 「あの子…って」 「ああ、前話したでしょ?俺たちの初恋の子」 「あ、それ俺も思った。顔似てる気がする!」 「彰さんまで…3人の初恋の子なんだからきっとすごく可愛い子なんでしょ?だったら私じゃありませんよ」 「えー、愛莉ちゃんすごくかわいいよ?」 「不特定多数の女の子に吐いているようなセリフ、信用しないようにしてるので」 「えー、本気で言ってるのにー」 そんなやり取りをしてると、雄介さんのレコーディングが終わり最終確認に入った。 それに救われた気分だった。 このまま話を続けていたら、話してしまいそうだったから。 …私が、その女の子なんだよって。 けどそれをきっと話してしまったら、この人たちと一緒に仕事ができなくなる。 だってそうでしょ? 私がその話をしたら、あのすずらんの花をくれたのも誰かわかる。 もし、それが誰かわかったら… 私はきっと、その人に恋をしてしまう。 それだけは避けないと。 だって私今、この仕事辞めたくないもの。 この3人と一緒に仕事がしたい。 一番近くでこの3人を見ていたい。 特別な感情ではなく、マネージャーとして。 この3人の成長を見届けたい。 私は今、その思いでいっぱいだった。
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