第2話―混乱と共に―

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スタジオに向かってる車の中。 後部座席で頬杖をつきながら不貞腐れている雄介さんを バックミラー越しに見る。 ビンタしたのはまずったか… アイドルは顔が商売道具なのに 「あ、あの…すみません…頬、叩いてしまって…」 「別に」 あの後 ビンタして体をどかした後でさえも雄介さんは寝たり起きたりを繰り返し、結局準備が完了したのは9時過ぎ。 なんとか急がせて車に無理矢理乗らせたのも不機嫌の原因だろう。 「頬、痛みますか?」 「別に」 あんたはそれ以外話す事できんのか!! 車内に気まずい空気が流れる。 でも沈黙を先に破ったのは、雄介さんだった。 「……部屋」 「え?」 何かを言おうとしてるみたいだけど、かなりためらっているように見える。 「…?部屋が、どうかしましたか?」 「……とな」 「?すみません、よく聞こえなかったんですが…」 「だから…!…部屋…少し掃除してくれたんだろ?……ありがと」 「…!!い、いえ!そんな…」 勝手な事すんなって怒られるかと思ったのに 雄介さんは耳まで真っ赤にして小さい声でお礼を言ってくれた。 『不器用だから』 千裕さんの言葉を思い出して、思わず笑ってしまう。 本当に、うまく自分を表現できないだけなんだなこの人。 「……何笑ってんの?」 「いえ、何でもないです」 「…あのさ…」 「はい?」 「……千裕達が、あんたがあの時の子に似てるって言ってた…俺も思ってたんだ。あんたが似てる、って…」 「え…」 「今の、笑った顔とか…よく似てる」 「ま、まさか…違いますよ。私じゃないです」 「…ふーん」 雄介さん… 私も一つ、思ったことがあるんです…。 あの時 私の体の上で寝息を立てる雄介さんをどかそうと、体を掴んだ時 鎖骨の辺りに ほくろがあったのが見えたんです。 『色っぽいところにほくろあるなぁって思ってたのよね』 もしかして、あのすずらんの花をくれたのは… 雄介さんなんですか――――…? 第2話―混乱と共に― END
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