第1話―それは突然に―

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「じゃあさっそく明日から働いてもらうから、よろしく。説明とか諸々あるから入りは9時でお願いね」 「はぁ!?無理だよ!大学行かなきゃだし、バイトだってあるのに!」 「大学もバイトも休みなさい」 「ちょ、無理言わないでよ!」 「愛莉ちゃん……社長命令」 「ぐっ…!」 その一言で何も言えなくなり、渋々承諾して自宅に帰ることに。 なんでこんな事になってしまったんだか… 「はぁ~…ありえない」 まだまだ就職難と言われてるこの時代 無名の国立大に通ってる身からしたら、3月に内定もらえてる状態ってのは正直有難い。 どの企業からも不採用通知が届くばかりで実際就活疲れもし始めてた。 けど… 「なんで芸能事務所で働かなきゃいけないのよ~…」 望んでいた結果は、これじゃない。 「はぁ…大丈夫かなぁ…大体才能って何よ、あるわけないじゃん。極々普通の一般市民だよ?私。…やっぱ無理だよ、芸能界なんて」 しわくちゃになった採用通知書を見てもう一度ため息をつく。 その用紙を机に置いて、飾ってある押し花に手を伸ばす。 「…ダメだね、ネガティブは。頑張らなくちゃだよね…じゃなきゃもう一度会った時、君に笑われちゃうね」 押し花の入った写真立てを抱え、ベッドに倒れ込む。 "約束だ" 小さい頃にした約束。 抱えきれないほどのスズランの花束をくれると言ってくれた もう顔も覚えてない男の子。 今、どこにいるんだろう。元気にしてるのかな。 また、会いたいな…。 明日の事なんてすっかり忘れて、そのまま私は眠りについてしまった。
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