第1話―それは突然に―

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「いい、愛莉さん。彰くんからは絶対目を離さないでね。それから愛莉さん自身も彰くんに気を付けて」 「はい。わかりました」 「そうだよーちゃんと見張ってないと俺色んな女の子のとこ行っちゃうからねー。愛莉ちゃんがちゃんと俺の相手してね?」 「彰、冗談に聞こえないから」 「なんだよ千裕まで、冗談だよちゃんと」 今更ながら… 本当に私、芸能人のマネージャーになるんだな…。 それも今売り出し中の人気アイドルのマネージャーに。 大丈夫かな、ちゃんと務まるのかな、失敗しないかな。 途端に重圧が来た。 いつもこんな時、すずらんの押し花を抱いて落ち着かせてきたけど ここにその花はない。 不安に震えていると、それに気づいたのか坂崎さんが私の頭を撫でてきた。 「そんな緊張しないで。すぐには慣れないと思うけど、慣れるまではちゃんとサポートするからさ」 「坂崎さん…」 「やだな、その呼び方。千裕でいいよ」 「俺も、彰でいいからねー。女の子には名前で呼ばれたいし。ちなみにさっきから喋らないそいつも雄介って呼んでいいから」 「は、はい」 「ど?ちょっとは緊張とけたかな?」 「すみません…ありがとうございます。おかげで少し楽になりました。至らないところばかりかと思いますが、精一杯サポートさせていただきます!どうか、よろしくお願いします!」 私は深く頭を下げた。 今更引き下がれない。…やってやる。 元々私は負けず嫌いなんだ。 自ら勝負を降りるのは、性に合わない。 この大物アイドルを、私の手で一生売れ続けるアーティストにしてやる。 そう意気込んで、ぐっと拳を握りしめた。
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